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渡来僧天国特集がいよいよはじまります!続々第二弾になります!

漫画『ロッタレイン』の紹介

松本剛 小学館 全3巻

あらすじ

玉井一(はじめ)、30歳。東京でバスの運転手を務めていたが、母親を亡くした後に、恋人が上司と浮気をしていたことを知り、精神を崩し、仕事中に事故を起こす。家族も恋人も仕事も失った一の元に、かつて自分と母を捨てた父親が現れ、一緒に暮らそうと告げる。父親には、再婚した女性との間の息子、そして、女性の連れ子である娘がいた。13歳の美しい少女、初穂。血の繋がっていない義妹。一は新潟の父の元へと赴き、新しい家族と、新しい生活を始めるが……。

解説

「僕たちは、出会ってしまった」とは第一話の煽り文句。閉塞感の溢れる新潟の田舎町で描かれる、美しい義妹との危ない関係性は、暗く官能的で、読む者をヒリつかせる。特筆すべきが、登場人物の心象を映し出したかのような、風景の切り取り方のセンスで、作品全体に重い陰を落としている。「ロッタレイン」=「土砂降りの雨」の中、ふたりの行く末はいかに描かれるか。寡作の漫画家が14年ぶりに叩き出したオリジナル長編。この傑作を読まずして2017年は終わらない。


・・・漫画トロピークの本年のランキング第1位は、果たして『ロッタレイン』が美を飾った。

そして、私ねとはも、もちろん、ダントツと言っていいのなら、ダントツの1位として本作を選出した。渡来僧天国氏も、『ポーの世界』に続いての2位として選出した。いわく、「読む前から傑作とわかっていたから、インパクトが薄かったがために2位になってしまった」という、高尚な理由付きである。

つまり実質1位といっても、過言ではない。

しかし!

「このマンガがすごい!」をみても、ロッタレインは箸にも棒にもかからず。「このマンガを読め!」をみても、17位という、あまりにも低順位。嘆かわしい。

みなさまには、是非この傑作にご注目いただきたい。

なにせ、一コマ一コマの「圧」がもの凄いのである。今回我々は、思いつくがままに、一コマ一コマをしゃぶりながら座談を行うこととした。

その座談会の模様をご覧いただこう。範囲としては、ネタバレに配慮し、第一巻のみに限定して行うこととした。


座談会

読者をひきつける技術

ねと:まずはここから始まるわけですよね。

天国:この二人の顔の向きが好きなんすよ。

ねと:この見開きだけでご飯三杯くらいいけますわ……。

天国:光の差し加減だとか…なんというか、宗教画っぽい神々しさがある。あと表情やな。二人はどういう関係なんだろうとか、一つの「謎」が突きつけられてるからね。引っ張り込む力が強い。謎といえば、「来ないで」っていうセリフもそうやけどな。

ねと:ドラマの始まりを告げる場面ですね。ここで一気に読者を惹きつけているわけですね。

バラと天気に関する考察

天国:第二話にいくけど、ニワトリのシーンが好きやな、やっぱり。

ねと:イイ……。

天国:あと、最初にバラが出てきたシーンがあるやん。そこやと、単に「キレイやな」で済んでたんやけど、一巻の終盤で出てきた見開きのバラやと「怖い」って感じたんやわ。

(p.60、p.240)

ねと:その心は?

天国:要するに捕らえられたってことなんやろうけど。

ねと:初穂に籠絡(ろうらく)されたと。

天国:初穂の内面に踏み込んだっていうことでもある。

ねと:雨が降ってる場面っていうのはこの漫画で非常に大事ですからね。雨は二人の関係性を暗示してるし、バラ自体は初穂の象徴だし、そのバラから怪しげなオーラが漂ってるのも……いや何なんでしょうね、このオーラ。伝わってくるものはあるんですが。

天国:今見ると、なんぼかツボミが残ってるねんな、コレ。

ねと:未成熟の暗示っていうことですか?

天国:バラが初穂の象徴説の正しさを感じた。

ねと:バラが初穂の象徴っていうのは、ここで最初に触れられてます。

(左:バラの場面:p.77)

天国:初穂と関係が進展するときって大体雨が降り出してるな。そう考えると、何もなくなっちゃったなっていう雲ひとつ無い空っていうのも……。

ねと:普通は晴れっていうのは、正の方向に働かせる描写としてよく使われると思うけど、この漫画においては、負というか、無の描写として機能してる。そして逆に、雨の描写は、初穂との関係性の進展を表しているというか……いやそこまで単純では無いけど、ともかく、正の方向に機能しているのは間違いない。あくまで、二人にとっては、やけど。

毛虫・ニワトリに関する考察

天国:あと、毛虫を素手で触るところって何を意味するんやろ。

天国:何となく言いたいことはわかるんやけど。初穂の世間からのはみ出し方というか。コイツ違うなっていうのを感じさせるシーンではあるんやけど、ピンポイントでは言い表し辛いな。

ねと:多分、自分が汚い存在である、っていうことの自覚ないしは象徴として機能してるシーンちゃうかな。

天国:つまり、この毛虫は初穂にとっては自分なんか。確かにそっと逃がしてるし、寄り添ってるような印象も与えるな。

ねと:確かに。そう考えると大事なシーンやったな。読み逃してた。

天国:ひとつひとつのシーンを気にしだすとキリが無いな。そう考えると、さっき言ってたニワトリも何かの象徴と思われてくるな。画像から感じさせるのは拒絶のイメージなんやけど。

ねと:ニワトリはちょいちょい出てきてますね。

天国:お母さんが倒れたときとか。

ねと:ニワトリが猫に食い殺されてるシーンも滅茶苦茶細かいけど、あります。

天国:ほんまや! この数ページ後に、ネコの鳴き声が響き渡ってるシーンもあるしな。

ねと:ほんまや! 気付かんかった。

天国:だからネコは死の象徴で、家族全体にそれが響き渡ってるってことか。そうだとすると、ニワトリが庇護の象徴なんじゃないかと。ネコに殺されてるニワトリはお母さん。初穂が殺してたニワトリは、兄貴ヅラすんなよ、という拒絶を表してるのかなと。

ねと:なるほどね。まぁちょっと読みすぎな気もするけど、そう矛盾は無い……。

好きなシーンを言い合うぞ!

ねと:ちょっと待って、いざ読みだすと、キリが無い! ここからは、こち亀のマニア同士の話みたく、「ここがイイ……」「イイ……」みたいな、以心伝心形式でやりましょう。とりあえず一巻の残りについては。ではまず僕から。

ねと:この表情と顔の切り返しが、イイ……。

天国:言語化できないなぁこれは。イイ……。

天国:俺は、一巻の最後のページが、もう、イイ……。これ以上ない土砂降りの最高潮で終わってるコト。一巻をココで切ろうって考えた奴が、わかりすぎやねん。

ねと:何回も言ってる通り、雨は二人の関係性ですからね。イイ……。

天国:直前のシーンで初穂が一の指を唇で拭って「キレイになった」って言ってたやん。それでどうなったかっていうのを、視覚で完全に表現している。

ねと:各三巻は序・破・急で構成されているがために、バラバラなページ数になってるんだと思う。このシーンは一巻の最後にあって、完全に破に繋がるよね。この構成も含め編集は、担当編集者の安島さんでしょうね。担当編集者さんも素晴らしい仕事をありがとうございます……。

出版部数に物申す

ねと:ていうか、話変わりますが、刷り部数がかなり少ないみたいですよ。実際三巻も、すぐにamazonとかでも品切れになってるし、増刷もされてないし。こんなの、一巻の冒頭の見開きだけで名作確定なのに……。

天国:世間は、今すぐにカロリーを摂取したい人が、それだけ多いんや。ええ匂いがするだけでは彼らの腹は膨れへんのや。

ねと:嘆かわしい。この座談や会誌をみて、買ってくれる人が増えることを願います。

続・好きなシーンを言い合うぞ!

ねと:話を戻しましょう。

風呂場シーン

天国:この風呂場のシーンがイイ。

ねと:もちろん、イイ。

天国:後ろから弟が覗いてるのもまたイイわ。

ねと:弟を描かなくてもいいのに、描いてる。

天国:描かなくても良いのに描いてるシーンっていうのは大体意味あるからね、この漫画。弟が初穂の庇護下にあることを強調してる。

ねと:考えてみると、こういう細かい描写は非常に大事ですよね……。

下校シーン

ねと:あと僕は、ふたりで下校するシーンが大好きですね。

ねと:この、コツコツという擬音といい、噛み合っていないようで噛み合っている会話といい、影の伸び方といい、構図といい……滅茶苦茶イイ……。

天国:確かに二人の距離関係といい、位置関係といい、すごい不思議な感じが出てるな。「先に帰りな」と一に言われてまだ帰らない初穂。(そんな初穂も)言いたいこと言ってから帰るんやけど、その言いたいことっていうのは、「あんたのことなんて何とも思ってないんだから」みたいなことやからね。

ねと:大人っぽく描かれる場面も多いけど、そのセリフについては、子供っぽさが強いですよね。こういう、子供っぽくもあり、大人っぽくもあるっていうのが、初穂なんですよ……。

腰の角度(ねとはの独り言)

ねと:この微妙すぎる腰の角度もイイ。これ以上距離を縮められない、絶妙な距離感を表している。抱きしめきれない。

心憎い細やかなセリフ(と姉弟関係)

ねと:お母さんが亡くなりそうになってる、という背景の元、再登場するコンビニのお姉さん。そして、ムッとする初穂。微かな嫉妬心。そして次のページで、上の空になる初穂。

ねと:「ちょっと茹で過ぎちゃった」というセリフ。次のページの風呂場のシーンでは、弟の話を聞いていなくて、上の空。翻って初めて、上の空だったからこそパスタを「茹で過ぎちゃった」というセリフの意味がわかる。非常に細やかな演出。

天国:しかしこの弟も、この年でお姉ちゃんとお風呂入るってのも結構異常やな。洗ってもらってるしな、しかも。

ねと:考えてみたら、しょっちゅう二人で風呂に入ってるシーン出てくるな。この姉弟関係が、最後の最後に爆発するわけですが……。そのための伏線があっちこっちに張り巡らされている。

天国:主人公と元恋人も洗いあってるシーンあったし。

ねと:そういうイメージが松本先生に強いのかもしれない。

ねと:あとここもヤバいっすね〜、「一生?」のシーン。

ねと:ふたりの関係性が変わってるからこそ出る言葉で、もちろん母親が死んだことも背景にあるけど、一生そばにいてね、と同じ意味やからね。

天国:そうやなぁ、そうすると、唇のシーンとかもう、結婚式やからな。

ねと:このあたりで、序としての一巻が終了ですね。


漫画『ロッタレイン』とは?

ねと:なんか本当に言いたいこと言っただけな感じになって、未読者にとって結局よくわからん感じになってませんでしょうか?

天国:しかし少なくとも想いは伝わったと思うで。なんかよくわからんけど、こいつらは『ロッタレイン』が好きなんやなっていう。

ねと:せやねん、むっちゃ好きやねん。結局のところ、総じてこの作品はどう位置づけられますか?

天国:俺は国語の教科書に載るような作品やと思う。

ねと:なるほど。

天国:国語の教科書に載ってるような話って、一行一行ここはこういう意味で〜みたいなのができるわけやん? 意味が無いところが、無い。

ねと:精読に値する作品ということですね。こういう無駄の無い技術的なところは、(作者が持っている)天性のものなんでしょうかね。

天国:丁寧に生きてきはったんやな、と思う。

ねと:後生大事にしていきたい作品ですわ。

さいごに

以上、途中で述べた通り、「イイ……」「イイ……」をなんとなく言語化して言い合っているに過ぎない座談になってしまったが、ファンに対してそうさせる力がこの作品には間違いなくあるということである。

是非、皆さま方においては、一コマ一コマを噛み締めて、読んでみていただきたい。

この記事の執筆者 (順不同)

ねとは

渡来僧天国


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