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File1. 『ポーの世界』考察 〜渡来僧天国氏の選ぶ2017年ベスト漫画に迫る〜

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渡来僧天国特集がいよいよはじまります!記念すべき第一弾をお届けします!

天国氏が選んだ2017年No.1漫画は『ポーの世界』

ご承知のとおり、漫画トロピークでは年に1度この時期に、年間の漫画ランキング作成の動きに入る。ひとりひとりが、年間のベスト20ないしは30の漫画を選出するイベントだ。

2017年に我らが渡来僧天国が選んだベスト1漫画は、何と新人漫画家ファムさんの描く読み切り作品『ポーの世界』であった。

ポーの世界

『ポーの世界』とは、マガジングランプリ(週刊少年マガジン主催の漫画賞)の佳作を受賞した作品である。詳細は「マガポケ」のブログに詳しいが、特筆すべきは、作者であるファム氏が22歳のベトナム人であるということである。

この『ポーの世界』、私(ねとは)からすると、一見して「まずまずの出来」「ストーリーラインは定型的で、ジャンプ〜マガジンによくある少年漫画の類型」という感想であった。

なぜ彼はこの漫画を1位に選んだのか?その理由を追究するため、今回、渡来僧天国氏に突貫インタビューを敢行した。以下がその記録である。。。


『ポーの世界』を読み解く

(聞き手:ねとは)

ー今日はよろしくお願いします。まずはざっくりと、1位にした理由を教えてください。

うーん、コレがあるから強いっていうより、コレがないから強い。と、言わなければならないのが、遺憾なんやけど。

ー?? どういうことですか? コレがなくて遺憾?

うん。日本の漫画を読んで育ってきた、日本人漫画家に代々受け継がれてきたミームってのがあるやんか。そんで、例えば、パンくわえた女の子が曲がり角でぶつかるっていうのは”可視化された”ミームやん。可視化されたミームであれば、あまり気持ち悪くない。「あえて使う」っていう意思が表れてるから。逆手に取る意図が。

ー言わばお約束的な?

そう。けど”可視化されていない”ミームっていうのは、意図していない、無意識にやっている。そして、臭い。そういうのを、俺はいろんな漫画の中に見つけてしまうねん。

ーたとえば? 具体的にはどういうものでしょう?

可視化されていないミームっていうのはそもそも「純漫画的」なものにはあまり含まれていないねん。こういうのは「純アニメ的」なものや、「純ラノベ的」なものにはたくさん含まれてるねん。よく覚えてるのは、リトバス(リトルバスターズ!)ってあったやん。たまたまテレビつけたらやってたのを見ててんけど、のっけから主人公が「腹減った腹減った」って言いながら出てきて、でその後に、「カツ丼カツ丼」ってほざきおってん。そこで俺は致命傷を受けてテレビの電源を即切ったんやけど。これが無理っていうのはわかる?

ーすみません、まだよくわからないので、もうちょっと詳しく。

ええっ!? これ結構極端な事例やで。じゃあ、具体例じゃなくて、可視化されていないミームがなぜダメっていう説明をするんやけど。まず、手抜きやろと。それは無意識に刷り込まれてるものであって、自分で考えてないから。

ーなるほど?

で、ニセモノ感がある。さっきの主人公は「腹減った、カツ丼」って言ってる時点で、生きたキャラではなくなっている。

ーそう言われてみれば、なんとなく分かる気がします。

そこまでがわかったんであれば……。えーと。 まず『ポーの世界』って、前情報なしで読んだら、まず日本人が描いたと疑わんくらい、よくできてる。まさかベトナムの人が描いたって思えへん。ただ、よく読んでみると、「可視化されていない日本的ミーム」がほぼほぼ含まれていない。それを裏付けるのが、たとえば主人公であるポーの、タメ口と敬語の微妙な混じり具合。

ポーの世界 ポーの世界

手癖で描いてたらこうはならない。こういう必然性のない不安定さがキャラを生かしてるっていうのが一つ加点要素であるわな。

ー見えないミームに侵されていない結果、キャラが生きることに繋がっていると。なるほど。それでは、なぜそれが重要なのかということについて解説をお願いします。

俺自身ね、『ポーの世界』を読んで初めて、いかに今まで謎の偏食に苦しんでいたのかということを自覚した。

ー偏食?

いかに食えないものがいっぱいあったのかっていうのを、今一度強調したい。そこが理解されてないと「そんな大層なことか?」って思われてまうから。

ー食えないものっていうと、さっきのリトバスの例とかですか?

そうそう。みんなが面白いっていう漫画であっても、謎の臭さが邪魔して楽しめないっていうのが今まで散々あった。

ーそうすると三大少年漫画誌や、あるいはガンガンの系統などにもそういう臭みがありそうですね?

あるねん。だから俺、ジャンプもほとんどダメ、ガンガンでいうと、◯◯◯◯(超有名作)とかもダメで。

ーなるほど。やっぱり渡来僧さん的に言う生きたキャラじゃないとダメですか。

他の部分との兼ね合いもあるけど、最低値を下回ってたらダメ。 だから『THE END』(真鍋昌平の過去作)とか好きやねん。ドリンクバーにぞろぞろ並んで「何かマヌケ」って言ってるシーンとか、普通そういうの描かへんからね。全くミームに依ってない。 『ポーの世界』を一位にした理由も、『THE END』とかぶる部分がある。

ー昔から渡来僧さんは、『THE END』には「ナマがある」と表現していましたね。

ナマっていうのは、結果的にミームの影響が排除された現象。あえてやろうとしないと起こらない。『ポーの世界』は、そもそも単純にミームに汚染されてない。それで今回はじめて偏食の原因を自覚した。

ーつまり、ナマは、日本人が努力して生きたキャラを描くことで、結果的にミームの影響が排除される。しかしー

そう、ファムさんは初めっからその影響がほとんど無い。 俺去年、一淳さん(武漢出身の中国人漫画家)の漫画を一位にした時に、これからどんどん黒船が来るって言ったやん。『ポーの世界』も一つの黒船やねん。たぶん、みんな俺程には過剰反応してないやろけど、今までミームに慣らされていた人たちがハッと目をさますんじゃないかと。そういう希望の黒船やねん。

ー渡来僧さんにとって非常に意味のある黒船漫画であるということはわかりました。では単純に、漫画としての面白さはどうでしょう?

まず、扉絵の影のつけ方でビックリ。影真っ黒でしょ。鎖の色とかも。

ーあと空の色とかもそうですね。

そう。影と影以外の境界線がクッキリしている。淡くないそのクッキリ感が好き。 まぁポーの造形も中山敦支っぽいし、空の色も荒木飛呂彦っぽくもあるけど、そういうことでは無いんだよなぁ。

ー正直、影の使い方の独特さには同意しますが、今言っていた絵柄や、またストーリーラインについてはかなり日本漫画的だと思いましたがそれは大丈夫なんですか?

そこに関しては、可視化されてるミームやからアレルギーはない。悪者が村に来て退治するっていうのは、桃太郎の時代からあるから。

ーあくまで可視化されていないミームに拘っておられる。

たぶん、俺が過剰にそれを気にしてるんやろな。

ーなぜでしょう。

なんでやろうなぁ。そこに関しては解き明かしきれん。好き嫌いの問題で理由は無いんかもしれん。

ーそれは昔から?

せやねん。物心ついた時にはもう。コロコロコミックとかはじめて読んだ時から受けつけへんかった。

ーえー!?

だからヤンマガを読んだときに、これやん!ってなってん。ヤンマガは比較的ミームの汚染を受けていない雑誌やからね。 だから、漫画が好きなはずやのに、多くの漫画を心からは楽しめないという。 こういう黒船がもっと来て、みんなと同じように読める漫画が増えてほしい。比較対象が増えると、俺が今言ってることも認知されてくると思う。

ー光源が増えると全体像が見えてくるってことですね。 ーただ、その黒船である他国の漫画も、やはりその国のミームに侵されているのでは?

もしかしたら中国人やベトナム人は「くっさ!」て思ってて、俺がそれには気づいてへんだけかも。けどそれは恐らく無い。

ーなぜでしょう。

日本と他の国で作品の数が違いすぎてる。臭いミームが育まれるには多くの作品を経由する必要があるから、現状中国やベトナムは大丈夫なんじゃないかと考えてる。漫画に関してはまだ歴史が浅いから。

ーなるほど、興味深い話です。 ー少し話が巻き戻ってしまったので、もう一度戻すと、『ポーの世界』を一位にした要因は、「不可視のミームについての気付き」という一点だったのでしょうか?

いや、それだけではないな。単純にこの漫画好きやわ。たとえば1ページ目。これ、単純な伏線じゃない。もっかい読み返すことが前提で作られてるでしょ。止まってる世界だなんて、絶対初見で気づかない。このトリックはまさに漫画ならではやわ。

ポーの世界

あと、毎度のことやけど、時間巻き戻し演出がめっちゃ好きやねん。ポーの手錠が壊れて、みんな「何が起こったの?」ってなる。で、ちょっとだけ時間を巻き戻して、ポー視点で実はこういうことがあったんだと解説される。その下り。

ポーの世界

ーあっ、そういえばそうですね。

あと、ストーリーラインは定型的とはいえ、止まった時間の中を生きてる主人公の孤独がよく描けてたと思う。バックボーンがしっかりしてた。肉かじるとことかも伏線やったし。なぜ、勝手にかじったのか。それはずっとそうやって生きてきたから、みたいなね。

ポーの世界

ー確かに! キャラと設定が一貫している。

全体的にしっかりしてるねん! 確かにみんなが、よくあるやつやんって感想を抱くのもわかるんやけど、それにしてもよくできてるんちゃう? けど特別感が無いから、普通はランキングに入れない。でも、俺にとっては特別やったから、入れるよってことやね。

ーよくわかりました。私としても、この漫画の価値を再発見しました。しかし、よくよく読むと、漫画の演出も上手ですね。

ポーの世界

そう、隙が無い。しかもこの人22歳やからね!次回作が楽しみすぎる。

ーそれは……応援せざるを得ないですね。私もファムさんを応援します。そして勝手に漫画トロピークを代表して応援します。漫画トロピーク一同、ファムさんを応援しています!

応援しています!


ねとはのつぶやき

いかがでしたでしょうか。渡来僧天国氏の評価する漫画は、一見して、何の変哲もない漫画に映ることが、多々あります。しかし、こうして氏をほじくってみると、実は彼の奥底には純粋で優れた漫画観察眼があることがわかります。次回以降も、渡来僧氏を解剖していくと共に、彼のフィルターで濾過された聖なる漫画の真価を再発見していくことを、目指したいと思います。

この記事の執筆者 (順不同)

ねとは

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